2007年の日本における観察研究論文です。
結論は高脂血症治療薬(スタチン系薬剤)でコレステロールを下げると死亡率が上昇するという結論です。
特に心疾患死亡1人減らすために10数万人にスタチンを投与する必要があり、しかも逆にその他の原因で死亡する確率が増えるとは、酷い話です。
高脂血症治療薬(スタチン系薬剤)で死亡率が上昇
「総コレステロール高値の治療者データを利用した高脂血症治療薬の死亡率への影響とその経済効果」Jpn J Hyg. 2007;62(1):39-46.
2007年 九州大学 亀 千保子ら
論文の要約
- 1971年のフラミンガム研究にて総コレステロール(TC値)が220mg/dlをこえると冠動脈疾患の発症が加速的に上昇することがわかった。
- 1980年代後半にスタチン系薬剤が開発された。
- 1990年代に心筋梗塞に対する1次、2次予防効果に関する研究が発表された。WOSCOPS、4Sなど
- これらの研究の結果高脂血症治療剤の売り上げがトップになった。
- しかし、これだけ使用している薬剤にもかかわらず日本人を対象としたプラセボと比較した無作為化比較試験(RCT)はない!
- 日本脂質介入試験(J-LIT)ではTC値が低下すると心血管疾患以外の死亡率が増えるといわれている。
- 本研究ではJ-LITの結果を用いてTC値を低下させることによる日本人総死亡率への影響を推定し経済効果を評価することを目的とした。
- J-LITは5万人の高コレステロール血症患者を対象に6年間に及ぶシンバスタチンを用いた試験であるが全員に薬剤を投与している観察研究である。
結果
- 心疾患:死亡率はJカーブを描くが有意差なし
- 脳血管疾患:総コレステロール値が下がるにつれて死亡率が上昇 有意差なし
- 悪性腫瘍:総コレステロール値が下がるほど死亡率が上昇
- 全死因:総コレステロール値が240-259mg/dlで最も死亡率が低い。下がるにつれて死亡率が上昇。
- 費用対効果:女性30歳ー39歳においてTC値を160ー179mgl/dlへ下げたとき、心疾患死亡者を1人減らすためには、176,680人治療せねばならず、それにかかる年間薬剤費は約100億円。
考察
スタチンで総コレステロール値を低下させると心疾患の死亡率は減少傾向だが有意差なし。逆に総死亡率は上昇すると推計された。
コレステロールの生物学的機能を考慮するとTC値の過度な低下は多様な疾患や機能不全を引き起こすという仮説も否定出来ない。
脳出血、悪性腫瘍、鬱および自殺、事故、暴力、外傷、感染症、呼吸器疾患、消化器疾患など多様な疾患の死亡率とTC値との逆相関が報告されている。
日本動脈硬化学会のガイドラインはあくまでも動脈硬化性疾患の予防をエンドポイントにおいている。
日本においてTC値220ー259mg/dlを高脂血症と診断し、ガイドラインに従って240mg/dl未満に管理することは人体への危険性と医療資源分配の両面から検討の必要があるのではないか。